先日、歴史と趣のある函館市青柳町の函館公民館にて、シニア大学の講師を務めさせていただきました。講演前には、すぐ近くに鎮座する護国神社と函館八幡宮へ参拝し、清々しい空気と歴史の重みに触れ、心の底からパワーをいただきました。このエネルギーを胸に、「豊かな人生100年時代の仕組み構築」と題し、受講生の皆さんと貴重な時間を共有させていただきました。

今回の講座で私が最も強くお伝えしたかったこと、それは、「最後までパンツは自分ではく」というシンプルな、しかし非常に深いメッセージです。
目次
- 1. 「最後までパンツは自分ではく」〜その言葉に込められた真意〜
- 2. 介護のリスクはここにあり
- 3. 「自分でパンツがはけなくなったら終わり」ではない、、、
- 4. 介護現場で見た「自立への願い」
- 5. 介護予防の重要項目
- 6. 座ってでも出来る!四股(しこ)のすすめ
- 7. まとめ:今できることを、今日から始める
1. 「最後までパンツは自分ではく」
〜その言葉に込められた真意〜
「人生100年時代」という言葉が浸透し、誰もが長寿を享受できる可能性が高まっています。
しかし、ただ長生きするだけでなく、「豊かに」生きるためには何が必要でしょうか。
多くの介護予防体操や健康増進の活動では、「100歳まで自分の足で歩く!」といった目標が掲げられます。もちろん、自分の足で歩けることは素晴らしいことです。しかし、私は皆さんに、それ以上に大切なことがある、とお伝えしました。
それが「最後までパンツは自分ではく」という言葉です。
この言葉を聞いて、多くの方が少し驚かれたかもしれません。なぜ、「歩く」ことよりも「パンツをはく」ことなのか。そこには、私自身が長年にわたり介護の現場で見てきた、深い現実が隠されています。
2. 介護のリスクはここにあり
「100歳まで自分の足で歩く!」という目標は、移動能力に焦点を当てています。
歩行能力が低下した場合には、手すり、歩行器、車いすといった様々な補助用具が存在し、これらを活用することで移動の自立を維持することが可能です。社会全体で、移動をサポートする環境も整いつつあります。
しかし、「パンツをはく」という動作は、私たちが普段何気なく行っている「日常生活動作」の一つであり、その性質が大きく異なります。具体的には、着替えの中でも特に下衣の着脱は、バランス能力、体幹の安定性、股関節の柔軟性、そして手の巧緻性など、複数の身体能力が複合的に要求される動作です。
歩行能力が低下しても補助具で補える部分があるのに対し、「パンツをはく」といった日常生活動作においては、人の手が必要となる場面が格段に増えてくるのです。
3. 「自分でパンツがはけなくなったら終わり」ではない、、、
私が「パンツを自分ではけなくなったらどうしますか?」と質問すると、多くの方が苦笑いしながら「自分でパンツはけなくなったら終わり」と仰います。
確かに、ショックを受ける気持ちはよく分かります。
しかし、実際のところ、自分でパンツをはけなくなったら「終わり」ではありません。むしろ、そこからが「始まり」なのです。
何が始まるのか。
それは、「介護されるということが始まる」ということです。
この現実は、私自身が介護の仕事に携わり、現場で多くの高齢者の方々と向き合ってきたからこそ、痛感していることです。ご自身でできていたことができなくなる喪失感、他者の助けが必要になることへの抵抗感、そして、介護する側の負担。これらは、想像以上に当事者やご家族に重くのしかかる現実です。
4. 介護現場で見た「自立への願い」
デイサービスで勤務していた時のことです。息子さんと二人暮らしの90歳を超えた男性の利用者様が、私にぽつりとこう仰いました。
「なんとかトイレだけは最後まで自分で行ける体でいたい。息子の世話になりたくない」
この言葉は、今でも私の胸に深く刻み込まれています。ご高齢になっても、ご家族に迷惑をかけたくないという強い思い、そして、ささやかながらも自分自身の尊厳を守りたいという切実な願い。普段何気なく行っているトイレに行くという動作が、その方にとってどれほど重要な意味を持つのかを、改めて教えていただきました。
5. 介護予防の重要項目
トイレは、私たちの日常生活において、最もプライベートな空間で行われる動作であり、自分のタイミングで、誰にも気兼ねなく行えることは、精神的な安定にも繋がります。この「トイレは自分のタイミングで」という状態を維持することは、まさに介護予防における非常に重要な項目です。
排泄の自立が失われると、オムツの利用や排泄介助が必要となり、QOL(生活の質)の低下だけでなく、身体的・精神的な負担が増大します。だからこそ、元気なうちからこの大切な日常生活動作を維持するための対策を講じる必要があるのです。
6. 座ってでも出来る!四股(しこ)のすすめ
では、具体的にどのような運動が効果的なのでしょうか。私が「頑張らない体操教室」や講演でよく実践している運動の一つに、「四股(しこ)」があります。
「四股」というと、お相撲さんのイメージが強く、難しそう、きつそう、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私が推奨する四股は、決して無理をするものではありません。ご自身のペースで、できる範囲で行うことが重要です。
四股の動作は、股関節周囲の筋肉を大きく動かし、柔軟性を高める効果があります。股関節は、立ち座り、歩行、そして「パンツをはく」といった日常生活動作の要となる部分です。また、四股を踏むことで、足の裏全体で地面を感じる「足裏感覚」が鮮明になります。これは、バランス能力の向上にも繋がり、転倒予防にも非常に効果的です。
自宅で簡単にできる四股の練習方法は、椅子に座った状態からでも可能です。
座って四股踏みのやり方
①股関節を開き姿勢を正す
②膝を曲げて足をあげる
③つま先、かかとの順番に床に下ろす
※ストンと適度に刺激を加えることで骨の強化につながりますが、アパートやマンションなど音に注意が必要な場合は、ゆっくり下ろしてください。
この「座って四股踏み」を繰り返すだけでも、様々な効果が期待できます。継続は力なり、です。

7. まとめ:今できることを、今日から始める
今回のシニア大学での講演を通じて、私は改めて、人生100年時代を豊かに生きるためには、日々の小さな積み重ねがいかに大切かを強く感じました。そして、「最後までパンツは自分ではく」という目標は、単なる着替えの動作にとどまらず、私たちの尊厳や自立した生活を守るための象徴であると信じています。
「いつかやろう」ではなく、「今できることを、今日から始める」こと。それが、豊かな人生100年を築くための第一歩です。
これからも、皆さんがご自身の足で、ご自身の意思で、豊かな毎日を過ごせるよう、応援し続けていきたいと思います。